本日の演奏会に寄せて

私が務める指揮者の仕事の中に、音楽会のプログラムを決める「プログラムビルディング」という重要な仕事があります。これは知識だけでなく経験や教養が求められるとても難しい仕事ですが、私は常々、音楽会の曲目を考える際にある感覚を大切にしてます。それは素敵なレストランで素晴らしいコースメニューを味わった際の「あの感覚」です。どのようにメニューを組み立てれば、それぞれの作品を美味しく心地良く味わっていただけるか。そういった意味で、本日のメニューはオーケストラのメンバーと私で共に考え抜き、自信を持ってオススメする最高のメニューに仕上がりました。

そこで、私はシェフの観点からの料理にまつわる話が加われば、より一層お料理を楽しんでいただけるのではないかと考えました。世の中のシェフ(指揮者)の中には文章を書くことが上手な方が多いので、私のようなものは本当に困ってしまうのですが、どうかこの寄稿文が蛇足にならず、皆さまにとって料理の良いスパイスになることを願っております。

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さて、日本人が「芥川」という名前を見聞きすれば、まず頭に思い浮かべるのは、かの文豪芥川龍之介かと思います。皆さんに本日最初にお聴きいただく「弦楽のための三楽章《トリプティーク》」を作曲した芥川也寸志(1925~1989)の名前を見て、やはり芥川龍之介を連想された方も多いのではないかと思います。それはあながち間違いではありません。何故なら、芥川也寸志はその文豪の三男としてこの世に生を受けた人物だからです。

芥川也寸志は、文豪である父龍之介のSPレコードを通して様々なクラシック音楽に触れ、幼少期を過ごしたと言われています。そんな彼が好んで聴いていた音楽は「ペトルーシュカ」「火の鳥」などストラヴィンスキーの音楽で、幼稚園の頃には、「火の鳥」の「子守唄」のフレーズを口ずさんでいたそうです。ですから、彼が音楽家として成長した時、ソ連に対して憧れを持ったのはごく自然なことでした。しかし、彼の行動力は周りの想像を遥かに上回るものでした。なんと1954年、終戦からまだ9年しか経っておらず、ソ連と国交も結ばれていない中、自分の想いを抑え切れず、自作を携えてソ連に密航してしまったのです。

彼のその行動はソ連政府に大歓迎をもって受け入れられ、当時ソ連の音楽を支えていたショスタコーヴィチ、ハチャトゥリアン、カバレフスキーなどに能力を認められたこともあり、作品がソ連で演奏され、出版されるまでになったのです。当時、ソ連で作品を出版した日本人は彼だけでした。

本日お聴きいただくトリプティークは、そんな大事件の前年に書かれました。作品を聴くと、ショスタコーヴィチやストラヴィンスキーの曲想をご存知の方なら思わずほくそ笑んでしまうほど、彼らから多くの影響を受けている様子が伺えます。でも、ただソ連の音楽の模倣で終わらないところが、この作品の名曲たる所以で、日本人作曲家としてのアイデンティティも見事に組み込まれています。

第3楽章における変拍子の音楽は、斬新な変拍子を前衛的なものとする当時のクラシック音楽観を踏襲していたとも言えますが、彼自身が「近所の神社から聞こえてきた御神楽からヒントを得た」とも語っている通り、難解なように聞こえる中にどこか懐かしさを感じさせます。また、第2楽章はまだ幼い自分の娘のための子守唄として書かれていて、美しくも愛らしい作品に仕上げられており、彼の父親としての優しい一面に触れることが出来ます。しかし、そう思って目をつぶって雰囲気に身を任せていると、これがどうも簡単にはリズムに乗れない音楽です。そこはやはり、当時西洋に追いつけ追い越せと奮闘していた世代の日本人作曲家が作っただけに、5拍子を基調としたカノン(輪唱のようなもの)で構成され、特殊奏法も組み込まれた、近未来を感じさせる子守唄なのです。

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そんな芥川也寸志が憧れたソ連(旧ロシア帝国)には、芥川が生まれるひと世代前に、ロシアのクラシック音楽界を牽引した、ちょっと変わった経歴を持つ1人の作曲家がいました。その作曲家とは、海軍兵学校卒業後、海軍士官を経て、独学で作曲を勉強し、後に指揮者としても活躍した、本日2曲目にお聴きいただく「スペイン奇想曲」の作曲者リムスキー=コルサコフ(1844〜1908)です。

彼は、独学で作曲を学んだとはいえ、管弦楽作品を書く上で最も重要とされる管弦楽法すなわち「音楽を管弦楽で演奏するように書き上げる技術」にとても優れていました。彼の卓越した才能をもって描かれた「スペイン奇想曲」はオーケストラの魅力を存分に余すことなく伝える傑作と言えるでしょう。管弦楽法云々の話を差し引いても、演奏が始まるや否や、その輝かしくも力強いオーケストラの音楽から、全く違う世界に引き込まれるような感覚を覚え、興奮している自分に気付かれる方も多いのではないしょうか。それにしても当時ロシアで生活していた彼が、「スペイン奇想曲」中でスペインの色彩感溢れる異国情緒を描けたのも、「シェエラザード」の中で広大な海を航海する壮大な音楽を描けたのも、彼の管弦楽法の能力はもちろん、海軍士官であったことが大きく関係しているように思えます。彼の管弦楽法の魅力は、ロシアだけでなくフランスの作曲家にも大きな影響を与えたと言われています。例えばラヴェルも彼から影響を受けた1人です。ラヴェルはその作曲活動の初期にリムスキー=コルサコフの代表作「シェエラザード」のタイトルをそのまま名付けた序曲を作曲しています。

リムスキー=コルサコフは作曲家、指揮者としてだけなく、編曲家としても素晴らしい能力を持った人物でした。実はこの「スペイン奇想曲」も、スペインの作曲家ホセ・インセンガが19世紀末に出版した「スペインからの響き」の中に収められた民謡の旋律に触発され、その旋律を元に管弦楽曲として再構築し、作り上げたものなのです。

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このように魅力あるテーマや旋律を元に管弦楽作品が作られる例は他にも多くあります。その代表的な作品が、本日最後にお聴きいただく「展覧会の絵」です。この曲は、リムスキー=コルサコフと同年代に活躍したロシア人作曲家ムソルグスキー(1839~1881)が作った「展覧会の絵」というピアノ組曲を、ラヴェル(1875~1973)が管弦楽版に編曲したものです。ラヴェルと言えば、「オーケストレーションの天才」「管弦楽の魔術師」と呼ばれ、またストラヴィンスキーに「スイスの時計職人」と評された、やはり管弦楽法の才能に恵まれた作曲家でした。

実はラヴェル以外にも、ストコフスキーやアシュケナージなども、ムソルグスキーの「展覧会の絵」に創造する欲求を掻き立たせられ、管弦楽編曲を行っています。では、何故この「展覧会の絵」は多くの作曲家の創作意欲を刺激したのでしょう。真相はそれぞれ作曲家に質問してみなければわかりませんが、私の想像ではムソルグスキーの「展覧会の絵」の構成にヒントがあると思うのです。ムソルグスキーはその友人ハルトマンの遺作展を企画し、ハルトマンが描いた10枚の絵を見た時の印象を音楽に描きました。ムソルグスキーが「展覧会の絵」の中で描いた音楽は、プロムナード(歩く様子)と名付けられた歩いている際の印象と、それぞれの絵を見ている時の印象が織り成されて構成されています。それぞれの音楽は、作品を見る前の期待感、作品を見た時の印象、そして作品から作品へ移動する時の心の変化など、実に上手くムソルグスキーの心の様子を映し出しています。もしムソルグスキーが1枚ずつの絵を見た印象だけを編纂して組曲にしていたら、「展覧会の絵」が後世に残る名曲にはなり得なかったのではと想像します。私は、ムソルグスキーがプロムナードを作品に含めることで、彼自身の心の変化を忠実に描くことができ、そこから彼の感じた深い感動をより多くの人に伝えることが出来たと考えています。

いずれにしても、ラヴェルの管弦楽編曲が素晴らしいことは言うまでもありません。ムソルグスキーが作った音楽を、オーケストラという音のパレットにおいて、様々な楽器を駆使し描くことで「展覧会の絵」の魅力を存分に知らしめた功績は実に大きいと思います。

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さて、ここまでを振り返って見てみると、すべての音楽は必ずどこかでつながっていて、そこに私たちは改めてそれぞれのつながりへの感謝と感動を覚えるのではないでしょうか。本日の音楽会に足を運んでくださった皆さまには、ぜひ様々な世界に想いを巡らせていただきながら、心ゆくまで私たちの音楽を愉しんでいただければ幸いです。

(この文章は本演奏会にあたり指揮者の松元宏康先生から寄稿され、プログラム冊子に掲載されたものです。)

終演後

100人ほどのオーケストラがいた舞台から、600人ほどのお客様がお越しになった客席を。

弦楽器のみの音色で奏でられる「弦楽のための三楽章」。管打楽器も交えて華やかな「スペイン奇想曲」。休憩後には一転して厳かな、それでいて様々な色を併せ持つ「展覧会の絵」。

ホールの空気の中で、一連の流れの中でこれらの曲を聴いたとき、個々に曲を聴くのとは違うなにか別の印象を持たれたかもしれません。それはきっと演奏会場に足を運ばないと味わえない感覚です。昨日の演奏会をきっかけに、より多くの方々がクラシック音楽に親しみを持っていただけましたなら幸いです。

Orchestra Est 第2回演奏会
日時:2017年11月19日14時開演
会場:めぐろパーシモンホール
指揮:松元宏康
芥川也寸志 / 弦楽のための三楽章
リムスキー=コルサコフ / スペイン奇想曲
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) / 組曲「展覧会の絵」
ラヴェル / バレエ「マ・メール・ロワ」より「終曲への間奏」「妖精の園

前日GP

こんばんは、Orchestra Estです!

とうとう Orchestra Est 第2回演奏会 本番前日。今日の練習では午前中に細部の確認を行ったのち、午後にプログラムをすべて通す練習を行いました。
いよいよ本番は明日。14時、めぐろパーシモンホールにて開演します。また、13時35分からロビーコンサート・13時55分から指揮者によるプレトークを行います。

2ヶ月前、9/16の合宿から今回のOrchestra Estはスタートしました。それから6回の練習を経て明日の本番を迎えます。時が経つのは早いものです。

当日券ご用意ございます!!明日の昼はめぐろパーシモンホールへ!!!

↓チケットのお申し込みはこちら↓
https://www.orchestra-est.jp/ticketform/

↓Eオケの演奏会風景はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=aCCggXs-EHw
https://www.youtube.com/watch?v=z2EC7W5vIBw

Orchestra Est 第2回演奏会
日時:2017年11月19日(日) 14時開演(13時30分開場)
会場:めぐろパーシモンホール
指揮:松元宏康
芥川也寸志 / 弦楽のための三楽章
リムスキー=コルサコフ / スペイン奇想曲
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) / 組曲「展覧会の絵」
チケット料金:1000円(全席自由)
公式HP:https://www.orchestra-est.jp/

あと一週間!

こんばんは、Orchestra Estです! Orchestra Est 第2回演奏会 まで残り一週間となりました。

本日の練習はハープの小橋先生との初合わせ。スペイン奇想曲でのハープソロを始め、今回の演奏会にハープが無くてはならない存在だというのは以前記事に書いた通り。本番ではどこでハープが演奏されているかにもぜひご注目ください。

さらに、本日の練習には埼玉大学吹奏楽部様が再び見学にいらっしゃいました。本当にありがたい限りです。
さらにさらに、 東京農業大学ObOg管弦楽団 様からも4名のご見学が!こうして様々な方と交流ができるのも、オーケストラをやっていて良かったと思える点です。今後ともよろしくお願いいたします!!

↓チケットのお申し込みはこちら↓
https://www.orchestra-est.jp/ticketform/

↓Eオケの演奏会風景はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=aCCggXs-EHw
https://www.youtube.com/watch?v=z2EC7W5vIBw

Orchestra Est 第2回演奏会
日時:2017年11月19日(日) 14時開演(13時30分開場)
会場:めぐろパーシモンホール
指揮:松元宏康
芥川也寸志 / 弦楽のための三楽章
リムスキー=コルサコフ / スペイン奇想曲
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) / 組曲「展覧会の絵」
チケット料金:1000円(全席自由)
公式HP:https://www.orchestra-est.jp/

管弦で特訓

こんばんは、Orchestra Estです!
今日は管楽器と弦楽器のみで朝から全奏でした。本番まで2週間ということで、スペイン奇想曲と展覧会の絵を扱い、音程などの細かいところを詰めていきました。

そしてアンコール曲の音出しもしました。お楽しみに!

Twitter用の動画もいくつか撮ったようですよ。ぜひフォローしてみてくださいね。
https://twitter.com/orchestra_est

↓チケットのお申し込みはこちら↓
https://www.orchestra-est.jp/ticketform/

↓Eオケの演奏会風景はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=aCCggXs-EHw
https://www.youtube.com/watch?v=z2EC7W5vIBw

Orchestra Est 第2回演奏会
日時:2017年11月19日(日) 14時開演(13時30分開場)
会場:めぐろパーシモンホール
指揮:松元宏康
芥川也寸志 / 弦楽のための三楽章
リムスキー=コルサコフ / スペイン奇想曲
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) / 組曲「展覧会の絵」
チケット料金:1000円(全席自由)
公式HP:https://www.orchestra-est.jp/